正直言って、私は SE でもプログラマーでもなく、IT のプロではありません。
それでも、現在では「自称 IT 翻訳者」ではなく、ちゃんとお仕事をいただいて、収入を得られる状態になっています。
「翻訳者になろう」と思い立ってトレーニングを始めてトライアルに合格するまで3か月。
デビューから、仕事と言えるだけの収入を得られるようになるまで約 3 か月。
この期間で、私が取り組んできたトレーニングを紹介します。
即戦力を付けるトレーニング
マニュアル、マニュアル、ひたすらマニュアル
IT のプロフェッショナルではなく、英語のスペシャリストでもない私。
そんな平凡な人間が「プロの翻訳者」として自立するために毎日ひたすら取り組んできたのが、「IT 機器マニュアルの翻訳」トレーニングです。
なぜマニュアルを翻訳トレーニングの材料にしたかって?
それは、私が昔から機器マニュアルを読むのが好きだったからです。
さらに、マニュアルには、翻訳の初学者でも翻訳トレーニングに取り組みやすいたくさんのエッセンスが詰まっているからなのです。
それは、
-文章や文節が短く、明瞭簡潔。
-単語や熟語の用法がある程度決まっており、理解して使い回ししやすい。
-内容を読んで、翻訳していくうちにその商品を好きになる。
※これで実際に何種類か買い揃え、すっかりそのメーカーのファンになったものもありました。
他にもいろいろな要素がありますが、IT 社会に生きる私たちにとって、機器マニュアルは日常生活の一部。
他の難しい文章よりもなじみやすく、新製品の翻訳をしていると知識も増えて一石二鳥なのです。
「家電芸人」の方々ほど機器に詳しかったり使いこなせたりするわけではないのですが、「好きこそものの上手なれ」で、日々めきめきとレベルアップしていきました。
それに加えて、パソコン周辺機器についてさまざまなメーカーのマニュアルページを翻訳して、「翻訳業務にぴったり」の周辺機器も準備できたので、作業能率も上がっていったのです。
ただ、もしあなたが私と同じように IT の機器マニュアルで翻訳トレーニングをしようとお考えなら、注意点をお伝えしておきます。
キャッチーな表現のサイトは避けよう
IT 機器のマーケティングに関するサイトの場合、かなり「キャッチー」な表現が使用されています。
そういったサイトでは、翻訳そのものの実力を付けるトレーニングには適していません。
たとえば、英語版と日本語版を見比べた時、
「とてもこんな日本語にならないよねー」
と感じるサイトは、テキストにはなりません。
どんなにそのブランドが好きでも、ほかのものにしましょう。
その代表例は、リンゴのマークで有名なあの大企業。
私も、一時期このブランドの商品について詳しく知りたくて翻訳トレーニングのテキストとして使っていたのですが、あきらめました。
何しろ、同じ(と思われる)表現を見比べても、本当にその言葉が対訳なのかわからないのです。
「さすがは多くの人を引き付けるフレーズ!」
とは思いましたが、ちょっと翻訳のテキストにはならないなと感じました。
むしろ、翻訳だけでなく文章力が求められる「トランスクリエーション(Transcreation)」のテキストとしては良さそうですね。
これからの翻訳は、機械翻訳に負けない日本語力や表現力を身に付けるためなら、いいと思います。
ただ、英文和訳の練習をしたい方や、オーソドックスに翻訳のトレーニングを積みたい方にはお勧めしません。
それでは、オススメの内容を一部紹介します。
いわゆる、「GAFA」のサイトでは、機械翻訳だけでなくちゃんと翻訳者が翻訳したページがたくさんありますので、そういったページを優良テキストとして活用することが必要です。
私も、これらのサイトのいくつかで翻訳を担当していますが、翻訳時に使用する翻訳メモリもしっかりしていますから、翻訳の表記ゆれが少なく、IT 関係で単語や文節をどのように和訳しているかを頭と体に吸収することができます。
ぜひ、これらのサイトで興味を持てる内容を読んで英語版と日本語版を比較して、「これは良さそう!」と思えるページをピックアップしていきましょう。
トライアルは「マッチングテスト」
トライアルの問題は「トラップが仕掛けられた良問」
IT 関連のマニュアルを翻訳する練習をして、
「IT マニュアルの翻訳パターンはマスターしたし、いよいよ翻訳会社と契約して実際の案件をゲットするぞ!」
と思える段階まで到達したと仮定します。
でも、次にそびえる高い壁が、
「トライアルの壁」
です。
どれだけ IT 関係の翻訳トレーニングを積んで、IT 関係の翻訳ならプロとしての自信を持ってできる状態になっても、まずは翻訳会社のフリーランス採用試験とでもいうべきトライアルに合格することが前提条件なのです。
これまで、トライアルを受験した経験のある方はおわかりかと思いますが、
「トライアルの問題は、実務と違う」
場合が多いです。
いわゆる、「オーソドックス(そう)な英文」を翻訳するものが多く、実際の案件で取り組むような内容を翻訳する形式はそれほど多くありません。
あくまで個人的な見解ですが、この傾向は、特に日本の翻訳会社によく見られるように思います。
それでは、なぜトライアルの問題は、オーソドックス(そう)な英文和訳の形式が多いのでしょうか。
それは、問題の中にいくつかの「トラップ」を仕掛けているからなのです。
英文の中には、多くの日本人が翻訳にてこずったり間違えたりするものがあります。
その理由として、英語と日本語の文章構成の違いが挙げられます。
トライアルの問題には、日本人は間違えやすいけれどプロの翻訳者として間違えてもらうわけにはいかない内容が含まれているのです。
それをクリアしてこそ、晴れて「プロの翻訳者」としてお仕事をいただくことができるようになるのです。
「トライアル問題との相性」-これはあります
あなたがトライアルを受験するときには、その合否はあなたの実力だけでなく、会社やトライアルで使用する問題との相性も影響すると私は考えています。
あなたにとって相性のいい問題に当たれば、それが難しい内容でも合格できるでしょうし、逆に相性の悪い問題であればどんなに簡単でも不合格でしょう。
どうしても採用してほしい会社があるなら話は別ですが、トライアルは、あなたと翻訳会社とのマッチングテストのような意味合いも持っていると思います。
ですから、トライアルで連敗が続いたとしても、気にすることはありません。
いつか出会える相性のいい会社のトライアルには、必ず合格できるはずです。
こう言っていると、素敵な人との出会いの話のようですが、まさにあなたのパートナーとなる翻訳会社は、あなたにとっての「運命の相手」になるはずです。
ですから、評判やイメージで「いい会社」と思っていた会社も、あなたを採用しないくらいだから「相性が良くなかった」相手と言っていいと思います。
現に、翻訳者として一人前に収入を得られるようになった私も、いまだにトライアルに落ち続けています。
フリーランスの宿命というか、たまに仕事がなく時間が空くと、ついつい「翻訳者募集」を眺めてしまい、その中で興味を持った会社に応募してしまいます。
そうしてトライアルを受験することになるのですが、なかなか合格するのが難しいです。
あまり負けが込むと本業に支障が出そうなので深入りはしませんが、正直なところ「1 勝 3 敗」くらいのペースだと思います。
いや、「1 勝 4 敗」かな?
こう言っていると翻訳者としての信用度が低下しそうなのでこの辺にしますが、プロとしてバリバリ稼げるようになっても、汎用的な翻訳力は欠如しているということでしょうか…
とにかく、ここで言いたかったことは、
「100 点満点の翻訳力がなくても、プロの翻訳者として稼ぐことはできる」
ということです。
だから、あなたも自信を持って、プロの道を目指しましょう!